松崎しげる並に黒い話
関東地方で4年ぶりだか何年ぶりだかの大雪が降った。
その日わたしは仕事。
周りの友達たちは「会社から帰宅命令出てさ〜15時に帰れるんだよね(^-^)」さぞウキウキしながら打ったんだろうというメッセージを送ってきた。すぐさま「は?」その一言だけ送ってやって休憩から仕事に戻る。
そう、わたしは普通に終わりが定時なのだ。
勿論社長に抗議した。
みんな家が近い訳ではないし、夜につれてもっと酷くなるのだから早めに帰宅した方がいいよ!本当に帰れなくなっちゃいますよ!
わーわーしながら言った。
けど社長は違った。
「帰れなくなったら会社に泊まればいいよ」
社長の言葉にみんな白目を剥いた。
前から薄々と感じてはいたけどうちの会社は中々のブラックだ。
松崎しげる並に黒い。
休もうって考えは一切無い。
周りのお店も早々に閉めてる中うちの店だけやってる。
おかしい。
おかしくない?
お店に人なんて全然こないし、時間の無駄とも言えるよく分からん時間を過ごす。誰もパソコンなんて見てない上にキーボードを触る素振りさえ見せない。
もう必死の帰りたいアピール。
椅子に凭れかかり手足をだらんとさせてみる。
そんな私たちの姿を見ても社長は一貫してスルー。
帰す気は一切ないらしい。クソ!!
結局定時の18時になり、みんな荒々しくタイムカードを切った。(みんなの社長を見る目が凄かった)帰宅しようと駅までいったものの、ホームへ入場規制が掛かる程の遅延混雑フィーバー。再度社長への怒りが込み上げてきた。
改札は人で溢れ返ってる。
タクシー乗り場も長蛇の列。バスもパンパンだ。
待ってるよりも次の駅まで歩いた方がいいと思い、わたしは真っ白な地面に足跡を付け始めたのだった。
今思うとこの判断は賢明では無かった。本当に。
無言で30分歩いたところで傘を持つ手が悴み、感覚を失った手から傘がポロりと落ちる。
それを拾う事さえもままならない。
掴めないんだ。
指が開かないんだ。
むっちゃ大変。
おまけに風が強くて雪の粒が眼球へぶち当たる。周りに人が居なかったら「眼が、眼が!!」と叫んでしまいたいくらいにそれはもう痛い。激痛よ。
一駅分歩いたところで「これ以上歩いたら眼球が変形する」と恐怖を感じ、駅を覗いてみたけど先程と同様に入場規制になっていた。
みんな列をキッチリ作って並んでる。無理。
すげえな。
がっくり肩を落としまた雪が吹雪く中歩き出す。他にもわたしのような考えの人が居るのだろう、次の駅へ向かう道には足跡が沢山ついてた。
それから歩いて2時間が経過した。
足の感覚も顔の感覚もほぼない。寒すぎる。
風は変わらず強く、雪が吹雪いてくるので前も見えず、何度か意識が飛びかけた。マジで。
「雪山で遭難したらこんな感じなんだろうな」そう思った。気を抜いたら頭の中で走馬灯が駆け巡る気がして、必死に楽しい事を考えて意識を保ってた。
いつかラブラドールレトリバーを飼い、木の周りをグルグルとその愛犬と走り回って遊ぶんだ。名前はダニーにしよう。恋人と愛犬ダニーと一緒に走り回って遊……ここでそろそろ休憩しないとマジで死ぬやつだと死期を悟る。
すぐに近くにあった店に駆け込んだ。
感覚のない足を引きずり、転がり込んだお店は居酒屋だ。もう何でもよかった。暖が取れればそれでいい。
「ッシャーセ!」
今はこの店員の元気な入店挨拶すら「うるせえ!!」とブチ切れそうなくらい交感神経が大変な事になってた。
通された席もちょっと寒い。泣きそう。
けどここは大人なレディを演じよう。にっこりスマイルをうか「ご注文お伺いシァス!!」うるせえバカ!!って心の中で叫んだ。ごめん。
寒さで震える中わたしは
「ハイボール一つ」
バカだなと思った。けど美味しい。
焼き鳥にはやっぱりハイボールだね。
そうしてお店で1時間程過ごし時刻は22時くらい。
流石にもう平気だろうって駅に行ったらガラガラだった。
あの夕方の入場規制が夢だったんじゃないかってくらいにガラガラ。ガラガラ×100。
無事にお家に帰れました。
仕事終わったの18時だけど。
今度から雪の日は休んでやろうと思いました。オワリ。